ある部員の記録 Vol.1



【もう一人のちーちゃんについて】


俺は日曜日にちーちゃん[1] に連れられて通称「黄泉の池」という場所に行った。[2]
天皇陵を発見したり新たな道を発見したりで俺らは大興奮だった。
まあそれはさておき、その時の探索で疲れ果てて行けなかった道があった。
俺はその日以来その場所が気になって仕方なかったものだから
水曜日の休講になっていた英会話の時間に一人で探索に行こうと計画を立てた。

そして一人探索決行当日、あるはずの英語Iが突然休講になった。
俺は前日に因る遅くまで予習していたから「なんでやねーん」と思っていた反面、
その日のメインイベントである一人探索を早めに決行できるので心を躍らせていた。
意気揚々とタオルと虫除けスプレーを買い、ツイッターに写真を載せた。
遠足前の小学生くらい浮かれていた。これは笑ってくれて結構。では、そろそろ本題に入ろう。

俺はいつもの道を通り、ちーちゃんが教えてくれた「黄泉の池」へ向かった。
その日は一人探索であるせいか凄く心細くて
ツイッターを見ながらじゃないと怖くて足が竦んでしまう状態だった。
いつもの一人探索の時はこんなことはなかったけど
未知の領域であることもあって怖かったんだと思う。
そんでもってなんやかんやしてるうちに黄泉の池のある草原に着いた。
そこで俺は見覚えのある背中を見た。
白っぽい長袖ワイシャツと紺のジーパンを身につけていて、後ろ髪はやや長く細身の身体つき。
そしてあの歩き方と背丈。

「ちーちゃん」だ。

いつもの赤いリュックこそ背負ってはいなかったがあれはちーちゃんだった。
俺は条件反射で「おーい」と呼びそうになった。
でもよくよく考えるとあれはちーちゃんであるはずがなかった。
ちーちゃんはその日オレンジ色の半袖ポロシャツを着ていたしこの時間帯は授業中だった。
とりあえずその時は「ただの先客、見つかったら面倒だから引き返せ」
と自分に言い聞かせて自分の指令通り引き返した。

俺は冷や汗をかいていた。
別に見つかったら叱られるからという子供じみた理由からではない。(いや、少しはそれもあるが)
俺はついこの間あの後ろ姿を見ていたからだ。
あの日曜日の探索の日にそっくり同じの後ろ姿を見ていたからだ。


[1]部員の一人、ちくわのこと。
[2]詳しくは第8回大学探索レポートを参照。